ジェンダーと空間/場所 研究グループ  設立の趣旨


都市空間において女性がいかに不平等の状況に置かれているかを記述・地図化する「女性の地理学」が欧米で登場した1970年代後半以降,フェミニスト地理学者たちは,ジェンダーと空間/場所の関係性を追究することに専心してきた。それは,単に空間におけるジェンダー不平等の存在や,これまでの地理学における女性の視点の欠落を批判するに止まらず,人文主義地理学やラディカル地理学,ポストモダン地理学といった新たな地理学理論における空間概念に潜むマスキュリンなバイアスにも敏感に反応し,その問題性を暴き出すプロセスであった。1990年代以降になると,日本の地理学でも欧米のフェミニスト地理学の議論が紹介されるとともに,若手研究者を中心に,いくつかの貴重な業績が生まれている。とはいえ,ジェンダーをめぐる日本の地理学研究は,女性の居住や就業に関する実証的な考察を除けばいまだ数少なく,また,そのパースペクティヴは十分に展開されているとはいえない。もちろん,不平等の構造をつくり出す要因はジェンダーだけではない。年齢,階層,エスニシティ,障碍など,差異や差別を生み出すさまざまな要因が絡み合い,空間/場所に投影されている。今後,研究を進めていくうえで,ジェンダーを含めた多様な差異軸からの視点が必要なことは言うまでもない。
ジェンダーをはじめ多様な差異軸からの視点を地理学に導入するため,フェミニズムを含む社会理論や新しい社会・文化・政治地理学等における動向を踏まえて,ジェンダーと空間/場所について実証的にも理論的にも十分な議論を行う場をつくり出すことを目的に,本研究グループを設立する。そして,このような議論の場を通じて,日本の地理学研究を積極的に海外へ発信するとともに,日本の地理学界に新しい革新をもたらすことを目標に置いている。
この研究グループは,そのメンバーを母体とする科学研究費補助金等の研究資金への応募や,2013年開催の京都国際地理学会での「ジェンダーと地理学」研究委員会の招聘を企画している。これらの企画は,大学院生やポスドクなどの若手研究者に対して国内外での発表機会を提供する意図も含んでおり,地理学におけるジェンダーと空間/場所に関する研究の将来的発展を目指したい。

発起人:
影山穂波(椙山女学園大学・教授)
熊谷圭知(お茶の水女子大学・教授)
関村オリエ(群馬県立女子大学・専任講師)
西村雄一郎(奈良女子大学・准教授)
福田珠己(大阪府立大学・准教授)
吉田容子(奈良女子大学・准教授)<グループ代表者>

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