日本地理学会2012年春季大会における研究例会の報告
首都大学東京で開催されました日本地理学会春期大会中の2012年3月29日(木),本研究グループの例会にて以下の研究発表がありました。(参加者14名) 東郷直子 氏(奈良女子大学・院)「記憶の共有とコミュニティ形成」 <発表要旨> 人文地理学において「記憶」は,人間と過去の場所との感情的むすびつき,および現在の空間に影響をおよぼすものとして論じられてきた.1990年代,冷戦終結後のヨーロッパでは,記念式典の開催,戦没者慰霊碑の建立,博物館の建設といった「記憶」にまつわる諸行為が各地で盛んにおこなわれた.東西の境界の消滅というヨーロッパ社会のアイデンティティのゆらぎを背景に,地理学者らは「記憶」の営みによる国家アイデンティティの強化といった,「記憶」をめぐる空間のポリティクスに関心を寄せた.2000年代になると,これらの「記憶」は単一の「国民国家」という場所に固定された,主流たる人びとのものであり,女性,性的マイノリティ,移民あるいは民族的マイノリティの動的な「記憶」が排除されているという批判が生じた.このような記憶を掬い取るために,家庭内空間や空間スケールの可変性を志向した「ホーム」の概念が用いられた.これらの研究では,権力関係の不均衡によって抑圧された「記憶」や,それに対する「記憶」の抵抗の側面が強調された.2000年代後半以降は,記録メディアや位置情報サービスの本格的普及などによって,これまでの記憶研究において主たる対象ではなかった若年層の記憶行為が顕著になり,ウェブ仮想空間における新たなかたちでの記憶の共有に注目が集まっている.